脳の疲労を回復させる方法

御社の従業員の中に「最近どうにも疲れがとれなくて……」と言い始めた人はいないでしょうか。「お前も年だなあ」なんて言って済ませているかもしれませんが、実はそれ、笑い事ではないかもしれません。

 

というのも、慢性的な疲れの原因は「脳疲労」だという可能性があるからです。

 

この言葉は九州大学の藤野武彦名誉教授が提唱し始めた説で、近年テレビ番組などでもちょくちょく取り上げられるようになりました。脳疲労は放っておくと、大きな病気につながるおそれのある厄介な状態です。

 

そのため経営者自身はもちろん、会社の従業員も脳疲労を回復させる方法を日頃から実践しておく必要があるのです。

 

ここでは脳疲労の定義や原因、脳疲労が引き起こす自覚症状を説明するとともに、回復させるための方法について色々な角度から紹介します。

 

脳を回復させましょう!

 

脳疲労とはどのような状態でしょうか?

脳疲労とは、「脳の指揮系統がパニックを起こしている状態」のことです。

 

脳には「手足を動かせ」といった命令をする部位もあれば、「涙を出せ」「胃液を出せ」「眠れ」といった命令を出す部位もあります。唾液の量も脳が決めていますし、体温の上げ下げも脳の命令にしたがって調節されます。

 

喜怒哀楽の感情や、それによる体調の変化も、脳によって制御されています脳は人間のあらゆる活動をマネジメントしている、会社の経営者のようなものなのです。

 

経営者が疲れ切ってマネジメントがむちゃくちゃになれば、会社はどうなるでしょうか。

 

事業の成否を決める決断ができなくなったり、突然怒り出して従業員を困惑させたり、優秀な人材を理由もなく解雇したり……想像するだけでも恐ろしい結果が待っています。

 

脳疲労も同じです。心身のトップマネジャーである脳が疲れ切ってしまうと、意味もなく涙が出てきたり、怒りっぽくなったり、突然眠気が襲ってきたり、体温が乱高下したりと、むちゃくちゃになってしまいます。

 

このような症状を引き起こすのが、脳疲労なのです。

 

感情がコントロールできない!!

 

脳疲労が起こる原因

 

脳疲労の主な原因は、私たちが毎日生活する中で直面しているストレスです。

 

私たちの生活は30年前と比べてずいぶん便利に、豊かになりました。コンビニに行けば24時間いつでも出来合いの食べ物が手に入りますし、インターネットにアクセスすればたいていのことを調べることができ、遠く海の向こうにしかない商品も、通販で購入できます。

 

みんなが携帯電話やスマートフォンを持っているので、いつでもどこでも連絡がとれます。地図アプリを使えばルート案内をしてもらえますから、知らない街に旅行をしても誰かに道案内を頼む必要がなくなりました。

 

しかし、便利で豊かになった反面、大きなストレスを感じるようにもなりました。情報化社会の進歩は、脳にかける負担を爆発的に増加させたためです。

 

事実、米IT大手のシスコ社によれば、1984年の世界のデータ流通量が毎月17ギガバイトだったのに対し、2017年の世界のデータの流通量は毎月1,217億ギガバイト(DVD304億枚に相当)に上ります。

 

約30年で71億倍以上に膨らんでいるのです。しかもこの数字は今なお増え続けています。

 

少し生活を見渡してみれば、その影響はあちこちに見つかります。少し前までは家族でリビングに集まれば、1つのテレビで同じ番組を観ていたものです。

 

しかし今では1人に1台スマートフォンがありますから、それぞれがYouTubeなどを通じて観たいものを観るようになりました。

 

携帯電話がない頃は、外回りの営業に出てしまえば会社や取引先から連絡が入ることはありませんでした。

 

ところが今では会社用の携帯電話やスマートフォンから連絡が入ります。会社によっては社用車にGPSをつけられて、行き先を管理しているところもあるようです。

 

あらゆるモノ・コトが情報になり、絶えず私たちの脳に流れ込んでくる。それが今の世の中です。結果として、脳に小さなストレスが無数に蓄積されていき、脳疲労を起こしてしまっているのです。

 

ストレスが多すぎる!

 

脳疲労が与える影響

脳疲労を放置しておくと、本人はもちろんのこと、その人を雇っている会社にも、大きな損失をもたらすことになります。

 

先ほども簡単に触れましたが、疲れ切った脳は機能不全を起こします。脳疲労が原因の1つになっていると考えられている病気には、次のようなものがあります。

 

また、上表のような病気になれば、自ずと仕事にも影響が出ます。「気分障害やうつ病ならともかく、肥満は仕事と関係ないのでは?」と思うかもしれません。

 

しかし2009年のアメリカの研究者たちの調査や、2018年に東京大学の研究チームが横浜市と共同で行なった調査によれば、肥満と労働生産性には一定の関係性があることがわかっています。

 

仕事に悪影響が出るのであれば、経営者としても従業員の脳疲労を「個人の問題」として無視しているわけにはいきません。会社として何かしらの対策を講じる必要があります。

 

対策がいるな!

 

脳疲労を取るのに昼寝は効果的?

最も手軽で効果的な脳疲労の回復方法が、昼寝です。「こんなに忙しいのに、昼寝なんて!」と思うかもしれませんが、脳疲労を回復する昼寝は15〜20分程度の「プチシエスタ」で十分。シエスタというのは南欧で古くから生活習慣となっている「昼寝」のことです。

テキストが選択されてませんでした

1時間も2時間も寝ると、夜眠れなくなったり、脳が睡眠モードになって仕事が手につかなくなったりと逆効果です。

 

実際、グーグル本社には光と音をシャットアウトできる「エネルギー・ポッド」という昼寝装置が導入されていますし、日本でもGMOインターネットグループが「GMO Siesta」という昼寝専用ルームを設置しています。

 

なぜこんな一流企業がのんきに昼寝などしているのかというと、昼寝が仕事の効率を上げることが科学的な研究で証明されたからです。

 

代表的な研究はNASA(アメリカ航空宇宙局)の行なった実験です。この実験では、仕事中の宇宙飛行士にコックピットで平均26分の仮眠を取らせたところ、仮眠をしなかった場合と比べて、認知能力が34%、注意力が54%もアップしていたことがわかっています。

 

なにもグーグル本社やGMOインターネットグループのように、設備にお金をかける必要はありません。オフィスの椅子をリクライニングして寝てもいいですし、机の上に突っ伏して寝たってかまいません。

 

導入コストをほとんどかけずに仕事の効率を上げられるのですから、就業時間中のプチシエスタのルール化は、非常にコストパフォーマンスの高い施策だと言えます。

 

少し寝るだけで脳が活性化する!

 

脳に疲れを貯めない方法

昼寝以外にも脳疲労を回復させる方法はあります。

 

最も高い効果が期待できるのは、夜の睡眠の質を上げることです。特に寝入りばなの3時間は「睡眠のゴールデンタイム」と呼ばれており、この時間の眠りの質を上げることで、脳の疲労を大きく回復させられます。

 

ゴールデンタイムの3時間を有効活用するには、寝る1時間前くらいまでに入浴を済ませることが大切。忙しくてついシャワーで済ませてしまう人も多いかもしれませんが、38〜40℃のお湯に5〜10分浸かるくらいが理想的です。

 

質の良い眠りにするには、体の奥深くの体温(深部体温)をしっかりと下げる必要があります。寝る1時間前くらいまでに入浴を済ませておくと、温まった体温が徐々に下がっていき、布団に入るくらいのタイミングでちょうど眠気を誘う深部体温になるのです。

 

また、日中の仕事の仕方を変えるだけでも、脳疲労を回復させられます。人間の脳は同じ場所、同じ姿勢を続けると、ストレスを感じるようにできています。そのため3時間、4時間とデスクワークを続けていると、脳疲労が蓄積してしまいます。

 

30分に5分、1時間に5分といった形で小休憩を入れ、その都度立ち上がったり、外を眺めたりすれば、脳疲労を回復させながら集中力を保つことができます。やりすぎ、休みすぎを防ぐために携帯電話などのアラーム機能を使うのもおすすめです。

 

もちろん就寝前の行動や仕事中の休憩の取り方まで、いちいち経営者や上司が管理するのは不可能です。しかし経営者が脳疲労の回復方法を社内で共有したり、「小休憩を取っても上司は文句を言わない」など、回復に努められる環境を作ったりすれば、脳疲労によるさまざまな問題を予防できます。

 

まずは確実に効果の出る昼寝から、社内のルールに取り入れてみてはどうでしょうか。

 

まとめ

慢性的な疲れが脳疲労からくるものだったとしたら、放置しておくと心身ともに健康を損なうおそれがあります。そうならないために、会社全体で、脳疲労を回復する方法を日常的に実践しておきたいところです。

 

実際、私が健康経営コンサルタントとしてサポートさせていただいている企業では、昼寝を会社の制度として導入し、従業員の健康促進と業務効率アップを実現しているところがたくさんあります。

 

従業員は、なかなか自分から「20分間、昼寝をするので話しかけないでください」とは言えません。事務職などの内勤の従業員ならなおさらです。

 

ならば経営者側から歩み寄り、「この時間は全員昼寝をすること」と決めてやる。そうして初めて、従業員たちは堂々と昼寝ができるようになるのです。

 

「昼寝」をきっかけに、従業員たちの脳疲労を取り除き、会社全体のパフォーマンスをアップさせていきましょう。