健康経営とはどのようなものですか?

経済産業省のホームページでは「『健康経営』とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」とされています。

 

経済産業省が健康経営をわざわざ推進しているのには、きちんと理由があります。それは少子化と社会の超高齢化が進行する日本にとって、「国民が健康であること」に多くのメリットがあるからです。

 

とはいえ、私は健康経営の導入サポートを認められた「健康経営エキスパートアドバイザー」という資格を持っているのだから「お国のために、企業は自社の従業員を健康にしよう」なんて言うつもりはありません。

 

たしかに企業には社会貢献という立派な役割があるとは思いますが、会社は何よりも従業員の幸せのためにあると思っているからです。

 

ただ、健康経営を導入すれば会社は確実に良くなり、従業員の幸福度もアップする、と私は信じています。

 

ここでは経済産業省が健康経営を推進する背景を入り口として、健康経営の定義や、導入によって期待できること、効果的な導入の方法について紹介します。

 

健康は大切よね!

 

健康経営を推進する背景

 

経済産業省がわざわざ健康経営優良法人認定制度という枠組みを作って健康経営の推進を図っているのは、健康経営が浸透した先に「国民の健康寿命の延伸」と「新産業の創出」、そして「あるべき医療費・介護費の実現」を見据えているからです。

 

「平成30年版高齢社会白書」によれば2017年10月1日現在の高齢化率、つまり65歳以上人口の割合は27.7%となっており、すでにおおよそ4人に1人が高齢者という状態です。

 

さらにこれが2065年になると、全人口が約8,808万人となり、65歳以上人口が38.4%、75歳以上が25.5%という超高齢化社会が到来すると言われています。

 

今と同じように65歳で定年を迎え退職すれば、確実に労働人口は不足します。

 

病気になる人の増加による、社会保障費(医療費・介護費)の増加も大きな問題です。

 

2012年度に合計で43.5兆円だった医療費と介護費は、2025年度には73.8兆円に膨らむとされています。

 

高齢者が増えれば年金の支払いもかさみますから、社会保障費はますます増大していくことになります。

 

医療費の内訳も問題です。というのも、2015年度の医療費の内訳を疾患別に見てみると、以下のような現状が見えます。

 

 

・生活習慣病:34.5%

・老化に伴う疾患:15.6%

・精神・神経の疾患:10.9%

・器官系の疾患:13.1%

・その他腎不全や感染症など:25.9%

 

生活習慣病は名前通り日々の生活の積み重ねにより発症する病気です。老化に伴う疾患も、現役時代にどのような生活を送るかによって罹患する割合が変わります。

 

精神・神経の疾患も、仕事やプライベートにおけるストレスが影響しますし、器官系の疾患も喫煙などの生活習慣が一定程度関係します。

 

このように考えると、近年の医療費増大は「現役時代のしわ寄せ」が来た結果だと言えるでしょう。

 

また日本は世界一の平均寿命を誇る長寿国家である一方で、平均寿命と健康寿命の差(=不健康寿命)は約10年もあります。

 

日本の高齢者は、平均で10年間、寝たきりになるなど、介護を必要とする人生を送っているのです。

 

労働人口不足、社会保障費の増加、長期化する不健康寿命−−−これらの問題に対する解決策の1つが健康経営です。

 

健康経営によって、日本の労働者が心身ともに健康な状態で働き続けることができれば、ここまで見てきた問題が一気に解決していくのです。

 

「国民の健康寿命の延伸」が達成できれば、短時間労働やボランティア、6次産業化した農業といった高齢者向けの「新産業の創出」が実現できます。

 

その結果、「あるべき医療費・介護費の実現」ができる。これが経済産業省が健康経営を推進する目的なのです。

 

 

健康経営の定義

 

冒頭でも述べたように、経済産業省はホームページで「『健康経営』とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義しています。

 

これでは少し漠然としているかもしれません。健康経営エキスパートアドバイザーとしてたくさんの企業のサポートをしてきた私が、この定義を言い換えるとしたら、次のようになります。

 

「健康経営は働く人がお互いの多様性を認め合い、家族のように支え合って1つの組織として効率的に稼働できるよう、事業を経営するための哲学」

 

例えば経営者が「従業員の体の健康が第一だから、明日からみんな働かなくていいぞ」と言い出したら、従業員は喜ぶでしょうか。

 

最初のうちは休暇感覚で楽しめるかもしれませんが、徐々に「仕事がない=自分の役割がない」ことが嫌になってくるはずです。人は誰かに求められたり、認められたりしてこそ、心の健康を保てる生き物です。

 

だから従業員の健康を心身両面から実現するためには、単に仕事の負担を減らすのではなく、社内にお互いの価値を認め、お互いに支え合う文化を作る必要があるのです。

 

健康経営における「健康」とは、そうして個々が自然に団結し補い合える心身の状態を指す、と私は考えています。

 

もしかしたら、「急になんだかきれいごとを言い出したな」と感じた人もいるかもしれません。

 

現場で汗を流している経営者の方からは、「きれいごとでメシが食えたら苦労しないよ」とお叱りを受けるかもしれません。

 

でも人手不足が慢性化していくこれからの時代を生き抜くためには、大手や他社のやり方に無理やり自社を当てはめるのではなく、すでにある自社の強みをフル活用するための取り組みが必要不可欠です。

 

どんなに得意な分野でも、心や体が疲れていては持っている能力の100%を発揮することなどできません。

 

メジャーリーグのスター選手でも体調不良のときは結果を残せないのですから、一般企業に勤めるサラリーマンや経営者が無理をして働いても、よい成績をあげるのは難しいでしょう。

 

組織も同じです。会社全体が心身ともに健康でなければ、自社の強みをフル活用することなんてできないのです。限られた人材しかいない中小企業ならなおさらです。

 

健康経営の導入は単なるきれいごとではなく、企業の未来のための立派な投資なのです。

 

未来投資

 

健康経営を導入することで期待できること

 

経済産業省は健康経営を導入することで、「企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながる」としています。

 

ものすごく単純化して言えば、「元気で楽しく働けるようになるから、組織としてのパフォーマンスも上がるよ」ということです。

 

具体的には以下の3つの点でプラスの影響が期待できます。

 

①退職率ダウン

②労働生産性アップ

③「変化」への対応速度アップ

 

 

①退職率ダウン

前出の記事「健康経営優良法人認定制度とはどのようなものですか?」のなかでも解説していますが、健康経営が会社に浸透することで互いの健康やプライベートを気遣えるようになると、会社が従業員にとって安心して働きながら自身の価値を感じられる場所――社会における「居場所」になっていきます。

 

自分の「居場所」があると思えると、人は安心するものです。結果として人材の定着率が上がり、退職率がダウンするというわけです。

 

②労働生産性アップ

①と同様に「健康経営優良法人認定制度とはどのようなものですか?」で説明していますが、心身ともに健康になれば、自然と仕事に集中できるようになります。

 

すると同じ能力の人でも、同じ時間で不健康な時よりずっと多くの成果が出せるので、会社全体の労働生産性がアップするのです。

 

③「変化」への対応速度アップ

時代の変化がますます加速化していく今後において、非常に重要な要素です。これからのビジネスは、10年単位どころか5年、3年といった短い単位で、業界の常識が一変するような時代になっていくでしょう。

 

企業が生き残っていくためには、この変化に対応し、取り残されないよう食らいついていく必要があります。

 

そのためには従来のトップダウン型の組織のあり方を見直さなければなりません。なぜならトップダウン型の組織というのは、組織のパフォーマンスがトップの能力に依存してしまうからです。

 

 

「経営者やリーダーが優秀なら大丈夫」と思うかもしれません。しかし世の中の変化のスピードは、もはや個人だけで対応できるようなものではなくなっています。

 

トップダウン型の組織のままでは、どうしても俊敏に動くことができません。

 

一方、健康経営によって組織自体が健康的になった企業なら、時代の変化に敏感になり、変化が起きたときには身軽に対応することができます。

 

従業員同士が本心で語り合い、互いを思いやる家族のような関係性を持つ組織は、トップがわざわざ指示を出さなくても、従業員それぞれが「仲間のために」と自分の頭で考えて、時代の変化に対応してくれるからです。

 

変化に対応する!

 

健康経営コンサルっているの?

健康経営の導入は特に難しくありません。言ってしまえば、経営者が「よし、今日からうちは健康経営をやるぞ!」と決心すれば、その日から健康経営がスタートします。

 

しかし単に従業員全員が健康になるだけではなく、「健康経営の定義」の項で述べたような「働く人がお互いの多様性を認め合い、家族のように支え合って1つの組織として効率的に稼働できる」よう、組織を変革したいと思うなら、健康経営に詳しいコンサルのサポートを依頼した方が近道です。

 

一口に健康経営コンサルと言っても色々な人がいますが、頼りがいのあるコンサルタントを選びたいのであれば、次の3つの指標をもとに判断することをおすすめします。

 

 

まとめ

経済産業省が健康経営を推進する背景には、「国民の健康寿命の延伸」「新産業の創出」「あるべき医療費・介護費の実現」という目的があります。

 

しかし健康経営がもたらすのはこうした国全体のメリットだけでありません。組織のパフォーマンス改善や、心身の健康を通じた従業員の幸福度アップなど、企業にとっても多くのメリットが期待できます。

 

もちろん、経営者が地道に実現を目指すのもありですが、「働く人がお互いの多様性を認め合い、家族のように支え合って1つの組織として効率的に稼働できる」というレベルの健康経営を実現するためには、信頼できる健康経営コンサルの力を借りた方が効率的です。

 

そのため健康経営導入の際は、自社の目的に応じて、コンサルの活用を視野に入れてみることをおすすめします。