人手不足と今後の対応

現在、日本の産業の大半が人手不足に苦しんでいます。この問題には日本の人口構造や、各企業の多種多様な事情が絡んでいるため、簡単には解決できません。

 

しかし、だからといって放置していると、今いる従業員の健康が損なわれたり、人手不足が原因で倒産したりする企業が増えてしまいます。経営者としては一刻も早く手を打ちたいところです。

 

ここでは日本が抱える人手不足の問題と影響、代表的な対策について見ていきながら、人手不足の時代でも採用に困らない企業へと転換する方法を紹介します。

 

そうなんだよ!

 

人手不足が起きる原因

近年多くの経営者を悩ませている人手不足には、国全体の問題と企業ごとの個別の問題が関係しています。

 

国全体が抱えている問題のうち、最も大きいのは少子高齢化に伴う労働人口の減少です。

 

「日本の将来推計人口(平成 29 年推計)」によれば、1995年に8,726万人だった15歳から64歳の人口は、2017年には7,596万人にまで減少しています。

 

この傾向は今後も続き、2029年には7,000万人、2040年には6,000万人、2056年には5,000万人を割り込むと予想されています。これだけ「働ける人」が減れば、企業が人手不足になるのは当然でしょう。

 

 

しかし人手不足には、企業ごとの個別の問題も深く絡んでいます。「2017年版 中小企業白書」によれば、中小企業は上図のような理由から人材を求めていることがわかっています。

 

この中でも深刻なのは18.8%を占める「慢性的な人手不足」です。

 

慢性的に人手不足が続く原因は採用力の不足と定着率の低さです。滅多に求人応募がなかったり、せっかく採用しても1年〜3年程度で転職してしまったり……厳しい現実に目を背けたくなる経営者は少なくないはずです。

 

考えると頭が痛い

 

人手不足がもたらす影響

ただ、目を背けてばかりいると、事態がどんどん悪化していくのも事実です。

 

 

上図は「成長・拡大志向企業」と「安定・維持志向企業」それぞれが感じている、人手不足がもたらす職場への影響をグラフにまとめたものです。

 

いずれの志向を持つ企業でも、人手不足が深刻化すると、さまざまな問題が起きると認識しています。特に、「時間外労働が増加・休暇取得数が減少」「メンタルヘルスが悪化」「能力開発・育成の時間が減少」「労働意欲が低下」「人間関係・職場の雰囲気が悪化」といった事柄については4~7割もの企業が影響を指摘しており、人手不足がもたらす問題が浮き彫りとなっている、と言えそうです。

 

残業時間が増加したり、休みがとれなかったりすると、どんなに働き盛りの優秀な従業員でも、体に疲れが溜まっていきます。

 

また食事や睡眠に気を遣う余裕もなくなってくるので、ファストフードやコンビニ食のような不健康な食事で済ませたり、睡眠時間を削ってまで仕事をしたりする人も増えます。

 

実際、健康経営アドバイザーが関わっている会社でも、同じような問題が起きたことがあります。

 

その会社のエース従業員は働き盛りで、「気合があればたいていのことはなんとかなる」という思考の持ち主。

 

健康管理など気にもとめず、毎日、長時間の残業をこなしたあと、深夜に大好きな唐揚げ弁当を食べ、シャワーを浴びて寝るだけの生活を送っていました。

 

その結果、彼はある日、死の危険もある「不安定狭心症」と診断され、お医者さんから緊急入院・緊急手術を言い渡されるという事態を招いてしまったのです。

 

会社はエース従業員の穴を埋めるためにてんやわんやの大騒ぎ。彼が無事退院して職場に復帰してくるまでに、他の従業員は肉体面でも精神面でも、ひどく消耗してしまいました。

 

幸い、この会社の場合はこのトラブルを糧とすることができました。エース従業員が復帰した後は、仕事の配分や従業員自身の健康管理を促すことで、以前にも増して業績を伸ばしたのです。

 

しかし、そんなハッピーな展開が可能な企業ばかりではありません。

 

長時間労働により身体は疲弊。精神も病み、仕事に対するやる気も出ず、周囲の人間関係もギクシャクしていて、成長も感じられない。

 

そんな職場で長く働きたいと思う従業員は稀なので、ますます離職者も増える。するともっと人手が減って、さらに事態は悪化していく。

 

そんな悪循環に陥る――あるいはすでに陥っている企業は少なくないのです。

 

ハッピーで終わるといいんだけど!

 

どのような対策が必要ですか?

このような事態を防ぐためには、次の3つの観点から対策を施す必要があります。

 

・採用力の強化

・人材定着率の改善

・労働生産性の向上

 

採用力を強化し、新しい人材を確保していくためには、以下の5つのポイントを意識する必要があります。

 

 

新卒採用でも中途採用でも、今は圧倒的な売り手市場。企業は選ぶ側ではなく、選ばれる側です。そのため、企業には求職者側から選ばれるための努力が求められています

 

では人材定着率を改善する方法には、どんなものがあるのでしょうか。

 

厚生労働省が発表した「平成29年雇用動向調査結果の概況」によれば、転職者が前職をやめた理由のトップは、男女ともに「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」でした(その他、定年退職などは除く)。

 

これを見ると、人材定着率改善のためにまずできることは、労働時間の正常化や福利厚生の整備と言えそうです。

 

しかし最近話題になっている「ハイジーンファクター(衛生要因)」も見逃せません。

 

ハイジーンファクターとは働き手の精神面に関わる職場の問題を指す言葉で、従業員の離職の大きな要因になっていると考えられています。

 

具体的には、職場の人間関係や作業条件、健康・家庭との両立などです。

 

ハイジーンファクターを解消するのは簡単ではありません。人間関係を良くするには時間や労力がかかりますし、これまで健康・家庭との両立は従業員個人の問題として扱われてきたため、多くの企業はノウハウを持っていません。

 

ですが、だからといってハイジーンファクターを放っておけば退職者は増える一方です。なんとか知恵を絞って対応する必要があるのです。

 

労働生産性を向上させるには、「売上や利益を増やす」か「労働時間や人件費などの労働量を減らす」のいずれかを実現する必要があります。

 

具体的には、仕事の見える化を通じて業務フローを効率化したり、IT技術の導入によって業務の自動化を進めたりといった方法があります。

 

詳しくは当ブログの記事「健康経営を導入すると労働生産性が上がるって本当?でも解説しているので、より詳しく知りたい人はそちらも参照してください。

 

こんなこと考えている従業員がいるかもな!

 

人手不足で倒産することがある

「なんだか大変そうだなあ」と思った人もいるかもしれません。しかし人手不足問題を抱えている企業は、なるべく早い段階で対応することをおすすめします。

 

なぜなら、人手不足を放置していると、最悪の場合会社が倒産してしまうおそれがあるからです。

 

実際、東京商工リサーチの調査によれば、2018年度の人手不足倒産は前年度比22.0%で増加しており、その数は387件にも上っています。

 

同様の調査は2013年度から行われてきましたが、2018年度は6年間で最多の数字を記録しています。

 

人手不足が深刻化してくると、まず受注できるはずの仕事を受注できなくなります。無理に受注しても社内では処理しきれないため、割高な外部の人材にアウトソーシングせざるを得ません。

 

人件費が膨らんで利益が減ると、仕事を受ければ受けるほど赤字が増えていくという事態に陥ります。そうなると遅かれ早かれ倒産は免れません。

 

また事業の中核を担える優秀な人材ほど、転職や独立に気持ちが傾きがちですが、人手不足によって労働環境が悪化していればなおさらでしょう。

 

実際、エース人材の離職が相次いで、事業を継続できなくなった企業も少なくありません。

 

経営者は、人手不足倒産という取り返しのつかない状況になる前に、なんらかの策を講じる必要があるのです。

 

処理しきれん!

 

人手不足の時代でも採用に困らない企業がある

 

「でも、さっき言われたみたいな対策を実践したくても、そのための人手やお金が足りない!」と思う人もいるかもしれません。

 

確かに採用活動を強化するには人手が必要ですし、福利厚生を整えるにはお金が必要です。先ほど紹介した労働生産性の向上策も同じです。

 

しかしコストがほとんどかからず、かつ「採用力の強化」「人材定着率の改善」「労働生産性の向上」の全てを実現する方法があるのです。それが「健康経営」です。

 

健康経営とは「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」(経済産業省ホームページより引用)とされており、経済産業省が推進している取り組みです。

 

一定の条件を満たして「健康経営優良法人認定制度」の認定を受けると、ホームページなどに「健康経営優良法人」のロゴマークを掲載できるようになります。

 

これが採用力強化に非常に効果的で、弊社でも取得後は求人への応募数が1.5倍に増えました。IT業界のようにタフな業界になると3〜4倍になる企業も少なくありません。

 

健康経営の導入に成功すると、従業員は肉体面だけでなく、精神面でも健康になっていきます。

 

社内のコミュニケーションが活発になって人間関係も良好になるため、職場が従業員にとっての「居心地のいい場所」になっていくからです。

 

居心地がいいと感じる場所には、なるべく長くいたいもの。そのため自然と人材定着率も改善します。

 

さらに心身ともに健康になると、「頭痛」や「人間関係のトラブル」といった、仕事の邪魔になるものが減少します。

 

仕事への集中力がアップすれば、労働生産性もアップします。だから健康経営は労働生産性の向上にも役立つのです。

 

健康経営は「人手不足の時代でも採用に困らない企業」になるための、強力な武器です。人手不足に悩んでいる経営者は、ぜひ導入を検討してみてはどうでしょうか。

 

なお健康経営優良法人認定制度については、当ブログの記事「健康経営優良法人認定制度とはどのようなものですか?で、健康経営については健康経営とはどのようなものですか?で詳しく解説しているので、気になる人はそちらも合わせてご覧ください。

 

まとめ

日本の産業が直面している慢性的な人手不足には、国全体が抱えている人口構造などの問題と、企業ごとの問題の両方が絡んでいます。

 

国レベルの問題が解決されるのを待っていてもしかたがありませんから、経営者は自社が抱えている問題を解決するために頑張るしかありません。

 

企業が人手不足解消のためにできる対策は「採用力アップ」「人材定着率アップ」「労働生産性アップ」の3つ。それぞれ個別に手を打つこともできますが、健康経営なら3つともまとめて実現することができます。

 

人手不足問題は、いつか必ず向き合わなければならない問題です。これを機に、健康経営を通じて人手不足対策をスタートさせましょう。