健康経営を導入すると労働生産性が上がるって本当?

「2009年以降、中小企業と大企業の労働生産性格差は広がり続けている」という問題を指摘したのは「2018年版 中小企業白書」です。

 

自社の労働生産性をなんとかして改善できないかテキストが選択されてませんでした、という悩みを抱えている経営者は多いのではないでしょうか。

 

労働生産性を向上させるには業務フローの効率化や人材育成など様々な施策がありますが、低コストかつ持続的な効果を期待するのであれば、健康経営がおすすめです。

 

ここでは労働生産性についての基礎知識や主な改善方法を紹介するとともに、健康経営との関係性について詳しく解説していきます。

 

本当だよな

 

労働生産性って何?

労働生産性とは「従業員1人あたりの仕事量」を指します。

 

例えば年間で10の仕事をこなしている従業員Aと5の仕事をこなしている従業員Bを比べた場合、「従業員Aの方が労働生産性が高い」ということになります。

 

労働生産性の高い従業員がたくさんいれば、同じ時間でより多くの仕事をこなせるため、新事業を展開したり、休暇を増やしたりと、組織としてやれることが増えます。

 

一方で労働生産性の低い従業員ばかりの企業では、長時間労働をしても結果につながりません。

 

そして働く人の心身が疲弊していき、さらに労働生産性の低下を招き、そのことがさらに心身を消耗させる……という悪循環に陥ります。だから企業は労働生産性を高める必要があるのです。

 

労働生産性によく似た言葉に「人時生産性」がありますが、この2つを混同すると施策を考える際に視野が狭まってしまうので注意してください。

 

人時生産性は「1時間あたりの1人の従業員の仕事量」を指す言葉です。

 

「1時間あたり」と区切ってしまうと、どうしても手近な物事にばかり目がいってしまいます。例えば「机の上を整理整頓しよう」「仕事の優先順位を決めてから手をつけよう」といった具合ですね。

 

しかし労働生産性、つまり従業員1人あたりの仕事量に視野を広げると、個人の仕事のやり方だけでなく、事業全体にも問題意識が向けられるようになります。

 

したがって、労働生産性と人時生産性はきちんと区別しておくべきなのです。

 

なるほど!

 

計算する方法ってあるの?

労働生産性は計算で数値化できる指標です。

 

労働生産性には、どれだけの量の仕事をこなしたか(生産量)に注目する「物的労働生産性」と、どれだけの付加価値を生み出したかに注目する「付加価値労働生産性」の2種類があります。

 

労働生産性の計算式も、種類に応じて変わります。

この場合の生産量とは「生産数量」「販売金額」を指し、付加価値額とは付加価値額=生産額−原材料費(中間生産物)−減価償却費で計算される数値を指します。

 

たくさん作ったり、売ったりすれば生産量は増えますが、付加価値額を増やすためにはコストの部分を最適化する必要があります。

 

労働量は文字通り、どれだけ働いたかを指します。残業をたくさんしたり、従業員の数を増やしたりすれば増加し、定時で帰る人が増えたり、従業員の数を減らしたりすれば減少します。

 

なんか難しそう!

 

労働生産性を上げるには?

労働生産性を向上させる選択肢は2つあります。ひとつは「生み出すものを増やす」、もうひとつは「使うものを減らす」です。

 

前述したように労働生産性は物的労働生産性と付加価値労働生産性の2種類がありますが、物的労働生産性の計算式にある「生産量」も、付加価値労働生産性の計算式にある「付加価値額」も、どちらも「生み出すもの」です。

 

一方で、両方の計算式にある「労働量」は「使うもの」です。こう考えると、「労働生産性=生み出すもの/使うもの」と表すことができます。

 

では、生み出すものと使うもののどちらを、どのように増減させれば労働生産性を向上できるのでしょうか。

①仕事の見える化を通じて、業務フローを効率化する

②人材育成により、一人当たりの付加価値額をアップする

③IT技術の導入によって業務の自動化を進める

④ビジネスモデルの見直しを行い、事業そのものの収益効率を高める

 

①〜④は代表的な労働生産性向上策としてあげられる施策で、いずれも「生み出すものを増やす」(②)、「使うものを減らす」(①、③、④)のどちらに当てはまります。

 

このように、生産量・付加価値額といった生み出すものを増やすか、労働量という使うものを減らすかのどちらかを実現すれば、労働生産性を向上させることができるのです。

 

 

健康経営を導入すると労働生産性が上がるのはなぜ?

健康経営は労働生産性を向上させる施策のひとつです。なぜなら健康経営の導入に成功すれば、従業員の心身が健康になるので、仕事への集中力が上がるからです。

 

というのも2009年にアメリカの研究者たちが行った研究によれば、うつ病、不安障害、肥満、不定愁訴(動悸、息切れ、頭痛、不眠などの慢性的体調不良)は、欠勤と「プレゼンティズム(日々の生産性)」の両方に大きな影響力を持つことがわかっているのです。

 

心身が不健康な従業員を多く抱えるほど、休む人は増えるし、ダラダラと仕事をする人も増える、というわけです。

 

また2018年に東京大学の研究チームと横浜市が共同で行った調査においても、健康リスクが高いほど労働生産性が損なわれることが報告されています。

 

「健康管理くらい、従業員が各々でやればいいだろう」と思うかもしれません。

 

しかし東京大学医学部付属病院の古井祐司氏は、2012年に作成したレポートのなかで、体を動かさない仕事の増加や、健康診断が実施されにくい非正規雇用者の増加といった、現代の職業構造・雇用環境が生活習慣病の増加を促していると指摘しています。

 

つまり従業員たちは、もはや個人では健康管理を徹底できない状況に置かれているということです。

 

この状況を解決するためには、経営側から従業員の健康管理を促進しなければなりません。そのための施策こそが健康経営なのです。

 

だからこそ、健康経営を導入すると労働生産性が向上する、というわけです。

 

事実、経済産業省が2019年に発表した資料によれば、健康経営の導入と企業の業績改善には、相関性があることがわかっています。

 

加えて、健康経営には低コストである点と、持続的な効果が期待できる点に、大きなアドバンテージがあります。

 

例えばIT技術を導入して労働生産性の向上を試みると、どうしてもそれなりのコストがかかってしまいます。

 

しかし健康経営で行う施策には「プチシエスタ(短時間の昼寝)の導入」「部活動の導入」など、コストがほとんどゼロであるにもかかわらず、一定の成果を得られるものがたくさんあります。

 

またIT技術のように新しいものを受け入れるためには、従業員たちの心身にゆとりがなければなりません。

 

現状で身も心も精一杯なのに、「なんだかよくわからない機械」「使いにくいシステム」が導入されるとなれば、「そんなものは要らない。今のやり方が一番いい」と反発したくもなるでしょう。

 

一方で、健康経営によって心身ともに健康になれば、IT機器の導入など、多様な労働生産性向上策にも積極的に取り組めるようになります。

 

その結果、持続的に組織の労働生産性を向上させていくことができるのです。

 

やっていればいいか!

 

働き方改革と健康経営の関係は?

 

健康経営は、近年盛んに叫ばれている働き方改革とも深く関係しています。

 

働き方改革と言えば、働き方改革関連法が定める以下の3点を指すことが多いですよね。

 

・時間外労働の上限規制

・年次有給休暇の時季指定

・同一労働、同一賃金

 

もちろんこれらを導入することも大切なのですが、本質を理解せずに導入したところで、ほとんど意味がありません。

 

形式的に残業時間に上限を設けた結果、従業員が持ち帰り仕事をしていたり、無理に有給をとらせた結果、現場が回らなくなったり、何の説明もなく同一労働、同一賃金を採用した結果、既存の人間関係がギクシャクしたり……これでは何のための働き方改革かわかりません。

 

政府が働き方改革を推進しているのは、「少子高齢化に伴って減っていく労働人口」「育児や介護との両立など、多様化していく働き手のニーズ」といった問題に対処するためです。

 

それには「個々が自分の『得意』を最大限に活用することにより、労働生産性をあげること」が必要です。

 

一方、健康経営アドバイザーが提唱する健康経営の目的は「働く人がお互いの多様性を認め合い、家族のように支え合って1つの組織として効率的に活動できるよう、事業を経営すること」です。

 

心身の健康は、この目的を実現するための手段でしかありません。

 

「個々が自分の『得意』を最大限に活用することにより、労働生産性をあげること」

「働く人がお互いの多様性を認め合い、家族のように支え合って1つの組織として効率的に活動できるよう、事業を経営すること」

 

こうして並べてみると、働き方改革と健康経営がほとんど同じゴールを目指していることがわかるのではないでしょうか。

 

健康経営は、企業にとって喫緊の問題である働き方改革にも、ダイレクトにつながっている施策なのです。

 

 

まとめ

社会の少子高齢化が進む中、日本の労働力は右肩下がりで低下しています。そんな現状において、労働生産性の向上は非常に重要な課題と言えます。

 

健康経営はこの課題を解決する有力な施策です。他の施策と比べて低コストかつ持続的に労働生産性を向上させてくれるため、経営者としても導入しやすいはずです。

 

この機会に健康経営を導入し、組織としてのパフォーマンスをアップさせてはいかがでしょうか。